情報量理論 一からおさらい7

 VII 文法の発生


 四次元のものを一次元のデータに変換しようとすると、Vの位置をI、II、IIIのどれかに定めなくてはならない。ところが、どの言語にも一長一短がある。そこで、不都合を解消するために、それぞれの語順の欠陥を補うことができるようなルールを定める。その欠陥を補うためのルールが無数に考えられ、さらにそのひとつひとつのルールにも一長一短があるとすれば、言語が時代とともにいつ果てるともない変遷を重ね、現在あるような多様性を獲得したことは想像にかたくない。
 犬のことをフランス語ではchien、スペイン語ではperro、イタリア語ではcane、ドイツ語では Hund、フィンランド語ではkoiraと言う。そのどれもが英語のdogからは想像もつかない形をしている。しかし、そのような呼称のちがいは言語と言語とを分けるものとして何ら本質的なものではない。
 これが猫になれば、それぞれ、chat、gato、gatto、Katze、kissaとなって、もともとは同じことばから出たものであることは容易に見当がつく。
 問題はむしろ、英語を含めてこの6つの単語が語源を同じくするものでありながら、複数形の成り立ちが異なっている。
 ドイツ語には雄猫を表す語もないではないが、通常は雌の形が両方を代表する。不定冠詞や定冠詞がつくと、それぞれeine Katze、die Katzeとなり、このeine やdieが変化して格を表す。
 フィンランド語は、このなかでは唯一冠詞がない言語で、その代わりに単数合わせて約30通りにも及ぶ複雑な格変化をする。
 文法というものに、無意味に複雑なものは何ひとつない。何かを複雑にすれば、何かがわかりやすくなり、何かが単純になる。名詞に男性形と女性形があれば、その分複雑にはなるが、それを代名詞で受けた時に何を指すか判断に迷うことが少なくなる。
 話の流れを作る手段として、語順、格変化、「でにをは」などの助詞、冠詞などが考えられる。語順が自由にならず、格変化も助詞もない英語のような言語には、必然的に冠詞が必要になる。
 目的を達成することができさえすれば、文法は単純な方がよいに決まっている。だから、語順が自由になって、格変化や助詞が発達していて、しかも冠詞があるなんて言語は存在しない。



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